インドネシアの神秘の生薬 ジャムゥ 入門編
インドネシアの「ジャムゥ」(Jamu)って知っていますか?これはインドネシアで長い長い歴史を持つ薬草を調合した民間伝承医学の薬・薬用茶です。日本で販売される時には食品として扱われています。原料は主にしょうが科の薬草で薬用ウコン類とか日本にはない特殊な薬用生薬の配合が多いんですが、みな食品と言えば食品ですのでね。でもね、このジャムゥが古代からインドネシアの人々を様々な病から救ってきたんですよ。
その起源は7、8世紀頃から起こったとされるジャワ文明と同じくらい古く、世界遺産のボロブドゥール仏教遺跡の浮彫にもジャムゥ薬を調合する姿が描かれているそうです。これにインドのアーユルベーダや中国の中医学、イスラム圏のユナニ医学等の影響も加わって行ったと思われます。文書に留められている範囲ではジャワ島のスラカルタ(ソロ)やジョグジャカルタのクラトン(王宮)で特に王家の女性やそこで仕える宮女らを中心に美容・健康目的でマッサージやジャムゥが用いられていました。この王宮での医療文献、実は宗教的な内容も含み神聖とされるため、ほぼ門外不出状態のようです。これらの医療知識はロンタルというヤシの葉に記されたもので、イスラム文化が入り込んで来てからは紙に記録されました。
このインドネシアの神秘的なジャムゥ民間医療を愛して止まない西洋人のスーザン・J・ビアースという女性がいます。彼女はこのジャムゥ古代文献を熱心に調査されています。彼女は元々リウマチを患っていた様ですが、西洋医学の治療は症状がでたら、それを化学合成薬剤で対処療法すると言うものが主です。完治という訳にはまいりません。その彼女がインドネシアでジャムゥに出会い勧められるままに飲んでみると、意外にも半年ほどで体質改善して完治したと言うのです。ここから彼女のジャムゥ探求の旅が始まります。
彼女はなかなか部外者が見られないスラカルタ王宮図書館の秘蔵図書写本等も閲覧しています。熱心に許可を求めた末の結果です。そこには古代医療思想が体系的に見られ、「チェンティニ本集」という写本では「医薬は自然から得られる」「多くの疾病は容易に治療できる」との記述があるそうです。この秘密の生薬レシピ、非常に気になりますよね。
このジャムゥの効果に科学的アプローチがなされたのは、ようやく20世紀に入ってからです。評価法は西洋医学のものを使っていますので、複数生薬レシピの評価は難しく、まず西洋医学的に生薬単品の効果から研究されていきました。その結果、ジョグジャカルタの伝統医療研究センターでは
○慢性関節リウマチと高血圧症にカシューナッツの木の葉が効果がある
○ウコンに潰瘍の治療効果がある
○ゴーヤ(ニガウリ)のジュースに糖尿病の改善効果がある
等の研究成果を発表しています。
ちなみにビアース女史の初恋のジャムゥは「ブガル・リヌゥ」(Pegal Linu:こわばるリューマチの意)と言うんですが、これはとりわけ苦いジャムゥとして知られています。これも後の1980年代にバンドンのトライ財団というところが科学的研究を行いまして、筋肉痛、リューマチ、極度の肉体疲労(現地の輪タク車夫など)の症状を、本当に改善させる事が示されました。
また肝臓病に著効のあったジャムゥに興味を持ったパジャジャラン大学薬学部のスィディック博士と言う研究者が、このジャムゥの有効成分の研究の末に「クルースィル」(Crusil)と言う肝臓病用の生薬ベースの錠剤の医薬品を開発しています。彼はこのジャムゥ伝統生薬の中にはまだまだ人間の役に立つレシピをがあるのを知っており医薬品として開発すべく働いています。
(インドネシア語リンク)
(Google和訳リンク)
ただ、西洋医学の薬品評価は複数の有効成分を一緒に扱うのが非常に苦手なんですよね。このため、続々と生薬ベースの新薬開発という流れにはなっていません。逆に米国の研究者が特定のジャムゥの生薬有効成分の5種の化合物を抽出し、それらを別々に投与した場合と5種の有効成分全てを投与した場合の違いを調べています。その結果、別々に1種の有効成分を投与された場合はほとんど効果が見られなかったそうですが、5種全て投与すると健康状態が劇的に改善されたそうです。つまり、ジャムゥは生薬の組み合わせこそが命で、生薬は加えると足し算で効くのではなく、掛け算的に効いてくるということなのです。
インドネシアではコロナ禍に入り、コロナ対策としてもこのジャムゥが大活躍しています。免疫を調整したり強くしてコロナにかかりにくくするためです。現地では「ジャムゥ・エンポンエンポン」と呼ばれていますが、これはインフルエンザ対策にも使われたりする多用途汎用ジャムゥ、ジャムゥ・ジェネラルとでも言うべき逸品です。その他にもアレルギーに悩む人々、体調のすぐれない人々にも飲まれているものです。
実は近年、日本でも、この「ジャムー・エンポンエンポン」と呼ばれるレシピの一種に現代風にコーヒーを混ぜた「コピ・ラチック」や「コピ・ランパッ」と呼ばれるものの仲間が人気です。日本で多いアレルギーの一つである花粉症の方で広まっているのです。いんどねし屋でも本場中部ジャワの高品質生薬を用いたこのジャムゥをジャムゥ専門家のレシピ調合で発売することになりました。どうぞ、よろしくお願いします。
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
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